パチリと目が開く。 部屋はまだ暗闇に包まれていたものの、窓際に引いたカーテンの合わせ目からはかすかに白い光が漏れ出していた。 そのまま微動だにせず天井をしばらく眺め続ける。 「‥‥‥‥」 横たわったまま頭を身体の横に傾け、ベッドサイドに置かれたデジタル時計の表示に視線を送る。 ----- AM5:30 ----- 「‥‥‥‥起きなきゃ」 すぐ隣で寝息を立てている同居人を起こさないように気を付けつつ、ベッドに手をついてタンクトップに包まれた上半身を起こす。 少し、肌寒い。 「ん〜‥‥」 身を起こす際に朝の冷気が毛布の間に入り込んだためか、かすかな呻き声を上げておそらく無意識の動作だろう、身を丸めようとする同居人。 彼女が再び規則正しい寝息を立て始めるのを待って、両脚をゆっくりと毛布の外にずらし出す。 そのままベッドの下に揃えてあったスリッパに両足のつま先を入れ、お腹の上に乗ったままの毛布を身体から外す。 「‥‥よいしょ」 ベッドから立ち上がったその場でゆっくりと伸びをして背筋を伸ばす。 そうして再び同居人の寝顔に視線を向け、かすかに頬をゆるめるのだった。 その後、キッチンに向かおうとして尿意があることに気付く。 少し迷ったものの、結局そのままキッチンに向かうことにする。 水を注いだポットをコンロにかけておき、その足で慌ててトイレに向かった。 用を足し終わってホッとした後、隣のドレッサールームに向かう。 タンクトップとホットパンツを勢いよく脱ぎ捨て、足元に置かれたカゴに放り込む。 下着を身につけ、ハンガーにかかった制服の上下を取り出したところでキッチンからピーッという音が鳴り響いた。 制服はそのままにして急いでキッチンに向かう。 コンロの火を止め、ポット用の半球状の網にサラサラとオレンジペコを注ぎ入れ、ポットの中にゆっくりと浮かべる。 食器棚からは両手持ちのトレイと二人分のティーカップを取り出しておく。 「‥‥ふぅ」 そこまでして不意にぶるっと身体を震わせる。 それで自分がまだ上下の下着だけしか身に付けていないことを思い出し、再度ドレッサールームに向かおうとした時。 「霧香ぁ〜〜」 ちょっと甘えたような気怠い声がベッドから聞こえてきた。 「あ、ミレイユ。 えっと‥‥おはよう」 ちょっと赤くなりながら声のするほうに顔を向けた。 「ちょっと‥‥おはようじゃないわよ霧香ったら。 寒いじゃないのさっさとヒーター入れてよ」 寝起きで半眼のままこちらを睨んでくる。 いつものことだが機嫌が悪そうだ。 「あ‥‥うん」 季節は秋も半ばを過ぎたところ。 朝晩がめっきり冷え込むようになってきた。 たしかにちょっと寒いかもと思う。 慌てて壁際に駆け寄り、設置された床下暖房装置のスイッチを入れる。 「って霧香、なんて格好でウロウロしてんのよ。 さっさと何か着なさい。 風邪ひくわよ」 霧香がドレッサールームに向かうのを邪魔していた当の本人が言う。 「‥‥うん、ゴメンね」 妙にお姉さんぶったミレイユのその台詞に、だが霧香はむしろ嬉しそうに微笑んだ。 高校の制服に着替え終わった霧香がキッチンに戻ってみると、素肌にワイシャツ一枚のまま椅子に座って紅茶を口元に運ぶミレイユの姿があった。 「あ、霧香ー。 アンタの分もいれといたわよ」 相変わらず気怠そうな口調で言う。 「うん、ありがとうミレイユ」 その後はいつものように朝のFNN(フェミニン・ニューズ・ネットワーク)を聞きながら、二人で作った朝食を摂るのだった。 ---- AM8:00 ----- 「それじゃ行ってくるねミレイユ」 霧香は戸口でシューズのつま先をトントンしながら言った。 「あ、霧香。 今日はアタシも午後から講義あるから。 お昼はカフェでいっしょに食べましょ」 活動的を通り越し、もはや開放的といったほうが正確ないつもの服装に着替えたミレイユは、ドアノブに手をかけた霧香を呼び止め、寝起きとは打って変わった快活に話しかける。 「カフェで? うん、わかった。 それじゃまた後でね、ミレイユ」 「はーい行ってらっしゃい、霧香ー」 ミレイユは片手をひらひらとさせながら応えるのだった。 <終わり> |